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仙台高等裁判所 昭和45年(く)4号 決定 1971年4月14日

少年 T・K(昭三〇・六・三生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告申立の趣意および理由は、少年作成名義の昭和四六年二月二三日付抗告申立書記載のとおりであり、その要旨は、少年は昭和四五年一〇月頃盛岡家庭裁判所の調査官から指示されたとおりその後まじめに生活してきたばかりでなく、同年一二月にポット、懐中電灯および清酒を盗んだのは少年ではなくて○や○広のやつたことであるから、原審がこれらも少年の非行として認定し初等少年院に送致する旨の決定をしたのは重大な事実誤認の違法を冒すとともに著しく不当な処分をしたというべきで取り消されるべきであるというのである。

よつて本件記録を精査すると、少年は捜査の頭初から原裁判所における調査および審判の段階を通じ原決定の認定した非行事実の全部につき少年自身の犯行であることを自供していたことが明らかであり、それらの非行事実のうち所論の抗争にかかる原決定の(一)の(13)ないし(15)についても捜査官に対して犯行の手口態様まで具体的且詳細に供述しており右の(13)および(15)の各被害届の記載に照らしても別段に喰い違う点もなく相即符合するので、原審がこれらの事実をも少年の犯行にほかならないと認定したのはまことにむりもないところと思料されるのであるが、翻つて当審における事実取調の結果をも併せ考察すると、原決定の(一)の(13)ないし(15)の各犯行の為された頃には少年は家出中で花巻市大通りの○じ○に食堂の二階に間借りしていた高校生○々○や○おの部屋にころがり込んだ形で起居を共にしさらに同所に出入する不良グループとボンド遊びなどをしていたので、これらの仲間のうちに少年のいう○や○広らも現実に居たと窺われるとともに、少年のいうようにポットと懐中電灯は○および○広ほか一名が金物屋の店頭で盗んで来て少年にその手口を話し清酒二本は○広および○ろ○が路上に駐めてあつた自動車の荷台から抜き取つて来てその手口を少年に話したのでこれらの品物を少年自身が盗んで来たかのように供述する知識に不足はなかつたであろうと思われるし、なによりもポットおよび清酒二本の各被害届は少年が花巻警察署で取り調べを受けて恰も少年自身の犯行であるかのように供述したその日である一二月二八日付で作成提出されたもので懐中電灯については被害者不詳のままに被害届も提出されないで終つていることが明らかで、これらの情況を彼此思い合わせると、少年の主張するように原決定の(一)の(13)ないし(15)は少年の犯行ではないのではないかとの疑念を抱かせるものが多分にあり、結局、これらの事実についてはこれを少年の所為として認めるに足る十分の証拠を欠くというほかなく、従つてこれらの事実をも含めて認定した原決定は事実を誤認したというべきである。しかし、右程度の事実の誤認をもつてしてはこれを全体的にみるときは未だ重大な事実の誤認とは認め難い。

他方、少年は小学校四年の頃から初発非行があつたようで昭和四四年春頃万引をして北上警察署の取調を受け同年七月一一日審判不開始となつたことも認められるうえに、昭和四五年春には原決定(一)の(1)ないし(3)のとおり自転車修理業○重○方で盗みをして同年五月四日同署で取調を受けその際取調警察官に対して二度と盗みをしないことを約束しながらその年の夏頃から年長の不良と交遊し再三の家出の都度非行を重ね、同年九月二四日には花巻警察署で原決定(一)の(8)ないし(9)の浴場での腕時計窃盗などについて取調を受けた後間もなく(一)の(11)および(12)の窃盗を敢行して同年一〇月二九日北上警察署の取調を受け、そのうえに前記のように同年末の一二月二八日花巻警察署で取調を受けたことが明らかで、再三再四警察官の取調を受けて尚反省することもなく非行を反復累行したことに徴し少年の要保護性の急速な深化定着が顕著に認められるので、前記事実の誤認にも拘わらず原決定の初等少年院送致の処分が著しく不当なものとは到底認められず、結局本件抗告申立はその理由なきに帰する。

よつて少年法第三三条第一項、少年審判規則第五〇条にしたがつて主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 細野幸雄 裁判官 深谷真也 桜井敏雄)

原審決定(盛岡家裁 昭四五(少)一〇四四号、一四二九号、一四五八号、四〇四六号、昭四六(少)一六七号、昭四六・二・一二決定)

主文

少年を初等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は

(一) (1) 昭和四五年四月一九日ころ、北上市○○町字○○○第××地割×番地の×自転車修理販売業○重○盛方店舗において、同人所有のサングラス二個(時価一、四〇〇円相当)を、

(2) 同月末ころ、同所において、同人所有の乾電池四本、懐中電灯二本(時価合計六六〇円相当)を、

(3) 同年五月一日午後四時ころ、同所において、同人所有の現金二、五〇〇円位を、

(4) ○藤○(昭和三〇年三月三〇日生)と共謀のうえ、同年八月一一日午前一〇時ころ、同町字○○××の××○屋○作方において、同人所有の現金一一、〇〇〇円、靴下一足(時価四五〇円相当)を、

(5) 同年九月七日午前一〇時ころ、同町字○○○○××の×××○吉○橘方において、同人所有の腕時計一個(時価一二、〇〇〇円相当)を、

(6) 同月八日午前九時ころ、同町字○○××の××○吉○方において、同人所有の現金五〇〇円を、

(7) 同月一〇日ころの午後二時ころ、同町字○○××の×××○葉○ス○方において、同人所有の現金一二、五〇〇円、腕時計一個(八、〇〇〇円相当)を、

(8) 同月一七日午後九時三〇分ころ、花巻市○○字○○○××千人風呂男脱衣場において、○泉○所有の現金一五〇円、腕時計一個(時価二〇、〇〇〇円相当)を、

(9) 同月一八日午後三時ころ、同所において、○橋○夫所有の現金一三〇円、財布一個、腕時計一個(時価合計六、二〇〇円相当)を、

(10) 同時同所において、○木○雄所有の腕時計一個(時価一二、〇〇〇円相当)を、

(11) 同年一〇月八日午後三時三〇分ころ、北上市○○町字○○○第×地割×××番地北上市立○豊中学校において、○藤○治所有の自転車一台、編上靴一足(時価合計一一、五〇〇円相当)を、

(12) 同日午後一〇時ころ、同町同字第××地割××番地○藤○○代方作業所において、同人所有の自動二輪車一台(時価三〇、〇〇〇円相当)を、

(13) 同年一二月一五日ころの午後五時ころ、死巻市○○町××番地荒物商○賀○之○方店舗において、同人所有のポット一個(時価三、二〇〇円相当)を、

(14) 同時ころ、同所において、氏名不詳の者所有の懐中電灯一個(時価二、〇〇〇円相当)を、

(15) 同月一八日午後七時ころ、同市大通り×丁目×の××自転車販売業○田○吉方前路上において、軽四輪貨物自動車の中から、同人所有の清酒一・八リットル入り二本(時価一、七二〇円相当)を、

各窃取し、

(二) 同年九月一二日午前一〇時ころ、北上市○○町字○○○××の××○藤○ツ方において、窃盗の目的で金品を物色したが、同人に発見されて逃走し、その目的を遂げず、

(三) 公安委員会の運転免許を受けないで、同年一〇月二一日午後三時四〇分ころ、盛岡市○○○町×丁目○共土地前路上において、自動二輪車を運転し、

(四) 同時同所において、公安委員会が道路標識によつて最高速度として定めた毎時四〇キロメートルを五〇キロメートル超えた毎時九〇キロメートルの速度で前記自動二輪車を運転したものである。

(法令の適用)

上記(一)の事実につき刑法第二三五条(共謀の事実につき更に同法第六〇条)

同(二)の事実につき同法第二四三条、第二三五条

同(三)の事実につき道路交通法第一一八条第一項第一号、第六四条

同(四)の事実につき同法第一一八条第一項第三号、第六八条

(保護処分に付する理由)

(1) 少年は家出中、小遣銭に窮し本件窃盗非行に及んだ。

(2) 少年は学業成績不良で怠学し勝ちであるところ、学校に行つてもクラス班長から何かあると注意され、それが嫌で怠学しようとすると家が学校近くであるため迎えに来て文句をいわれるといつたようなことが度重なり、また家に居ても母から叱責されるということもあつて昭和四五年九月一七日以降再三家出を繰り返し、その間不良交友の末、喫煙、シンナー遊び、そして本件非行に及んだものである。

(3) 少年は温順、受動的で気力に欠け、また小心かつ傷つき易く意志も弱く、逃避し勝ちで、自主性にも乏しい。

少年の知能は普通域であるが、少年は学校生活にすつかり魅力を失い、年長不良少年との交遊に楽しみを求めてきたもので、学校補導の限界を超えている。

少年はてんかん性性格とみられ、脳波検査にも異常所見が認められているものである。

(4) 少年の家庭は母子家庭で、現在の少年に対し保護能力ありとはみえない。

少年の兄が少年のことを心配し当審判廷にも出席したが、現在青森市在住、かつ若年で少年を保護する能力に乏しい。

以上各点に照し、少年に対してはこの際収容保護のうえ、学業指導性格の矯正を図るを相当と思料する。

よつて、少年法第二四条第一項第三号、少年審判規則第三七条第一項、少年院法第二条第二項を各適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 清永利亮)

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